遠山の霜月祭りは舞の型や式次第の違いによって、上町系・下栗系・木沢系・和田系に分類することができます。 ここでは、平成15年12月10日に行なわれた木沢正八幡神社の霜月祭りを中心に、木沢系の祭りの次第を紹介しましょう。
上島・木沢・小道木・中立・八日市場では、木沢霜月祭り保存会が中心となって祭りを行なっているので、次第はほぼ同じです。ただ、地域によって登場する面は異なります。
稽古

平成15年は、11月27日〜30日に木沢公民館で行なわれました。舞・笛・太鼓の練習を行ない、全日程に参加した人には修了証書が手渡されました。
祭りの準備(当日)
村の人たちが神社に集まり、めいめいで作業が始まります。平成15年12月10日の木沢正八満神社の霜月祭りでは、朝8時から作業が始まりました。
湯たぶさ作り
宮浄めなどに使う笹の束です。 |
たわし作り
釜を清めるためのたわしを36個、藁で作ります。 |
湯のあて飾り
かまどの上に吊るされた木枠に、「八橋(やつはし)」「湯男(ゆおとこ)」などの飾りをつけます。 |
注連縄ない
本殿と鳥居にかける注連縄をないます。 |
まかないの準備
炊事場では、村の主婦たちが器を洗い、煮物や味噌汁を作ります。 |
おひやしづくり
両親のある男女が、水に浸しておいた米を搗き、神様に供える団子を作ります。 |
かまどの塗り替え
表土を剥ぎ取ったかまどの上に藁を敷き、藁を刻みこんだ青粘土をかぶせて塗りこめます。五徳を使う神社では、この作業はありません。 |
若水迎え
(10:30〜)
近くの遠山川岸に前もって注連縄の張られ、その場で両親のある男女が柄杓で川の水を汲みます。男が7回、女が5回、そして二人一緒に3回汲みます。 |
釜清め
(11:00〜)
若水を汲んできた男女が、汲んできた若水で釜を清めます。一釜につき12個のたわしを使います。釜清めが済むと、釜になみなみと湯が張られ、かまどに火が入ります。 |
大祓い(13:00〜)
本殿の扉を開き、献供(けんぐ)・祝詞奏上(のりとそうじょう)などの神事を行ないます。これは、かつて前日の宵祭りで行なわれていました。 |
本祭り
(1)大祓い(おおはらい)
(17:00〜)
本祭りの大祓いです。禰宜が神殿の扉を開き、神事を行います。 |
(2)三条の祓・ひよしの神楽
(17:10〜)
かまどの前にむしろを敷き、「トーボーカミ、エービーターマエ、ハーライターマエ、キヨメテターマエ」と唱えます(三条の祓)。
その後、鉦・太鼓・鈴にあわせて十六神楽を歌います(ひよしの神楽)。 |
(3)神名帳
(17:40〜)
禰宜の一人が拝殿から神名帳を捧げもち、かまどを一周してから氏子総代に渡します。氏子総代がそれを読み上げます。
木沢村内の八社の神(はっしゃのかみ)と日本中の神々を舞殿(まいどの)に招き、無病息災・五穀豊穣を願う内容です。
神名帳の奉読が済むと、再び全員で神楽歌を歌います。 |
(4)湯立て(18:20〜、一回の湯立ては約40分)
七回の湯立てが続けて行なわれます。
八幡様の湯、両大神の湯、一の宮二の宮の湯、御鍬様の湯、池大明神の湯、親代様の湯、小嵐様の湯。
村内の7つの神が、全国からやってきた神々に湯を捧げてもてなすのだとされています。 湯立ての内容は次の通り。
※写真は中立稲荷神社
五大尊(ごだいそん)
湯木を襟に挿した禰宜(ねぎ)が3人(他の地区は2人)、竈の前に座り、「五大尊」と呼ばれる印を結びます。禰宜の一人が五つの方角を司る明王に守護を求める呪文を唱え、九字(くじ)を切ります。 |
湯木(ゆぼく)舞・湯立て
襟に挿していた湯木を持って、舞いながらかまどを一周します。元の位置に戻ると、二本束ねられていた湯木の封を解いて両手に持ち、体を左右に振りながら神楽歌をうたいます。周りの氏子たちも続けて歌います。 |
神拾い
湯たぶさで釜のふたを叩き、ふたを取り外します。右手で湯木を持ち、その先を湯にひたしながら、一人一人神々の名を唱えます。氏子たちがそれにあわせて「おーみーかーげ」とうらをあわせます。 |
| (5)太夫舞(23:00〜)
3人の禰宜が剣(刀)と鈴を持って「ちらし」という型を舞います。 |
※写真は中立稲荷神社
(6)宮浄め・八乙女(やおとめ)
(23:00〜)
禰宜が釜の湯を柄杓に汲み上げ、湯たぶさで散らしながら社殿と境内を清めて歩きます。数人の禰宜と氏子が鈴を鳴らしながらそれに続きます。
最後に舞殿の東北隅に祀られている「八乙女」という8本の幣串に向かって拝し、祝いの言葉を述べます。 |
※写真は小道木熊野神社
(7)家浄め
(23:30〜)
二人の禰宜が竹製の湯壷(ゆつぼ)に釜の湯を入れ、湯たぶさを持って社守(しゃもり)(祭りを行なう神社を管轄する禰宜)の家に行きます。家の中を清め、床の間を拝みます。 |
※写真は小道木熊野神社
(8)四つ舞(扇の舞・剣の舞(つるぎのまい))
(23:30〜)
釜を囲んで4人の舞手が二人ずつ対となり、舞をおこないます。右手に鈴を持ち、左手には扇、その後剣に持ち替えて舞います。舞の所作には「五法」「ためたり」「おけつ」「ちらし」「きんたま」などの型があります。 |
(9)立願(りゅうがん)ばたき
氏子の希望によって、臨時に行なわれる祈願のための神事です。祈願の程度や内容に応じて「一幡(いっぱた)」「十二立て(じゅうにたて)」「かな湯」「神子(かみこ)」などの種類があります。 |
(10)天伯(てんぱく)の湯
(23:50〜)
五大尊から湯木舞までは、先の7回の湯立てと同様ですが、その後氏子一同に湯木が渡され、皆で湯立てと神拾いを行ないます。神社と村を守る天伯神に湯を捧げるものといわれています。 |
(11)禊
(0:30〜)
座付け(夜食)の間に、四面を舞う若者たちが遠山川にくだり、禊をします。 |
(12)中祓い
(1:00)
釜の前にむしろを敷き、禰宜と氏子が三条の祓い(さんじょうのはらい)と神返しの神楽を歌います。神名帳(じんみょうちょう)で招いた神々にお帰りいただく意味があります。 |
(13)たすきの舞
(1:40〜)
舞手4人が鉢巻・襷姿で扇の舞と剣の舞を行ないます。
※写真は小道木熊野神社 |
※写真は小道木熊野神社
(14)しづめの湯
(2:00〜)
禰宜3人が五大尊・湯木舞など、これまでの湯立てと同様に行ないます。招く神は、この後登場する面の神々です。神拾いが終わると、禰宜たちは「せん静かなれ」と唱え、湯木を十字に交差して、釜の上に置きます。 |
(15)面(おもて)
(2:50〜) 全国の神々を送り返した後で、村内に祀られる神々が登場します。舞手は神殿前で面をつけ、舞殿に登場すると時計回りにかまどを一周します。
神社によって登場する面が異なりますが、名称が共通する主なものを紹介します。
※写真は上島白山神社
火の王(大天狗)
修行を積んだ禰宜がかぶります。かまどに足をかけ、一の釜の湯を素手で跳ね飛ばします。 |
※写真は上島白山神社
両大神(りょうだいじん)(源王大神・げんのうだいじん)
遠山氏の霊であるといわれます。上島では遠山新助と伝えられますが、木沢では土佐守景直であるといい、神社によって解釈が異なります。 |
※写真は上島白山神社
両大神(政王大神・せいのうだいじん)
遠山氏の霊であるといわれます。上島や木沢では、土佐守の子嘉兵衛であるといわれますが、神社によって解釈が異なります。 |
※写真は中立稲荷神社
一の宮
土佐守の奥方であるといわれます。 |
※写真は中立稲荷神社
二の宮
各地の神社に登場しますが、これを遠山氏の面とする伝承はありません。 |
※写真は木沢正八幡神社
遠山氏若党
遠山氏の若党であるとされる面が、木沢では7つ登場します。神社によって数は異なります。 |
※写真は木沢正八幡神社
子安様
人形を抱いた女性の姿で登場します。木沢では、浅間大神(せんげんだいじん)も同様に人形を抱いて現れます。 |
※写真は木沢正八満神社
四面(よおもて)
山の神など4つの面が次々と登場し、「ヨーセ、ヨーセ」の掛け声とともに、観客の中を跳び回ります。 |
※写真は木沢正八満神社
大黒様
大黒囃子を歌いながら舞います。 |
※写真は木沢正八満神社
婆
手に榊を持ち、「ばあさばあさ」と囃し立てる氏子を殴りつけて暴れます。 |
※写真は木沢正八満神社
神太夫(かんだゆう)
婆に遅れて登場し、観客の伊勢音頭とともに婆と抱き合い、退場します。 |
※写真は中立稲荷神社
稲荷様
狐の仕草をまねて軽快に舞います。 |
※写真は木沢正八満神社
水王(みずのう)(小天伯)
禰宜がかぶり、火の王と同様に湯切りをします。 |
※写真は木沢正八満神社
天伯様
最後に登場する面。剣を持ち、ゆっくりとした動きで舞います。上島白山神社では、弓矢を持った本谷天伯(ほんたにてんぱく)も登場します。 |
※写真は上島白山神社
(16)釜割り・かす祭り
(4:20〜)
襷がけした3人の禰宜が湯のあての四方の紙飾りをちぎり、剣で湯のあてを切ります。九字を切り、神楽歌を歌います。
禰宜の言葉にあわえて、氏子の一人が舞殿におからを撒き散らします。未練がましい神々に、「供物はカスしかないぞ」と知らせ、退散をうながす意味があります。 |
(17)木の根祭り
(4:40〜)
禰宜が舞殿を出て、境内の木の根元に幣串(へいぐし)を立て、小豆飯を供えます。「四方を開く、八方を開く。神を元のやしろにお送り申す」と、神返しの文句を唱えます。 |
(18)直会
(4:50〜)
氏子一同が舞殿でおじやを食べます。一応の片付けをして解散となります。 |
※ 各次第の時間は、平成15年の木沢正八幡神社のものを基準にした目安ですので、年ごと、神社ごとに違いがあります。祭り見学の際には、事前に遠山郷観光協会にお問い合わせください。
※ このページの内容については、『南信濃村史 遠山』と平成15年の取材をもとにしています。