長野県最南端の秘湯と秘境の里・山と渓谷に囲まれた里山がここにあります−信州遠山郷

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妖怪レッドデータブック・遠山編

神様の多さなら遠山谷も負けてない

 「千と千尋の神隠し」 には、ユニークな神々が数多く登場します。その異形ぶりは、むしろ「妖怪」と呼ぶべきかもしれません。  神様の多さなら遠山谷も負けてはいませんが、こと妖怪となると、はっきりいって遠山では絶滅寸前と言わざるを得ないのが現状です。そんな妖怪たちのいくつかをご紹介しましょう。(※イラストはすべて想像図です)

クダショウ

 クダショウはネズミのような形をしており、尾が平らで目は丸、ひげが長く、色はトチ、黒、白、ブチなどいろいろあるという。
  家クダショウ、山クダショウ、沢クダショウの3種があり、家クダショウは山クダショウより体が大きく、脚に水かきがあり、尾は太く、丸顔であるという。

 クダショウは、ウツギや竹の筒に入れて「福の神」として売られていたのを、村人が村に持って帰ったのが始まりであるという。
 クダショウは生味噌が大好物で、クダショウに舐められた味噌は駄目になる。
 彼らは一つの家に75匹おり、飼い主の心を読んで、他人に憑くなど様々な悪さをする。クダショウを飼う家は、そのおかげで一時は裕福になるが、クダショウはネズミ算式に数が増えるので、いずれは財産を食いつぶされる。

 熱でうなされた病人が、「おれはどこどこの家から来たクダショウだ」と口走ることがある。そんなときは、禰宜を呼んで「送りたて」を行なう。
  水窪の山住神社は狼がお使いなので、そこから箱に入った「お犬様」を迎えてくると、クダショウは怖がって離れる。この箱の中に何が入っているか、誰も見たことがない。
 1961年6月に中立の老婆が熱病にかかって以来、遠山ではクダショウに憑かれた例はない。このときは風折の禰宜が呼ばれ、不動経をあげてクダショウを落とした。

(『山国の神と人』『南信濃村史 遠山』)

遠山郷 クダショウのイラスト

小池の大蛇

 昔、大きな池のほとりに一軒の家があった。その家の一人娘は美しく、毎日池に自分の姿を映して見とれていた。
  ある晩、若い男が娘の家に忍んできて、以来毎晩のように通うようになった。怪しんだ娘の親が後を尾けてみると、男は池のそばで姿を消した。
  やがて、娘の腹が大きくなったため、家の主人は娘に針を渡し、「今度若者が来たらこれをつむじに刺せ」と言った。
  その夜、娘が言われたとおりにすると、若者は「痛い痛い」と言って外に飛び出していった。
  その後を主人が尾けていくと、男の姿は池のそばで見えなくなり、やがて池の中から声が聞こえてきた。
「おれがよせと言ったのに」
「でも、世継ぎはちゃんと作ってきた」
「そんなもの、節句の生神様の酒を飲めば降りてしまう」
 こうしたことから、節句の生神酒はとても大切なのだという。

(『ふるさとへの伝言』第2輯)

 『南信濃村ふるさと読本』によれば、池があったのは和田地区小池で、若者の正体は大蛇であったという。
  大蛇に見込まれた娘の名は千代、親の名は吾助であるという。桃の節句になって、吾助夫婦は娘に御神酒を飲ませた。
  やがて桃の花が池に浮かぶ頃、池から大蛇の形をした大岩が現れた。村人たちが岩の上に祠を建てて祀ったところ、以来大蛇が現れることはなくなったという。

遠山郷 小池の大蛇のイラスト

とうとの神

 遠山の各集落では、2月8日をコト始め、12月8日をコト納めといい、それぞれ「とうとの神送り」が行なわれた。
 木沢では、家の中を祓った御幣を子供たちが持ち寄り、禰宜の後について歌い歩いた。

「さんより さんよりよ とうとの神を送るよ」

 コト始めには村の下手、コト納めには上手の村境へ送った。村境の神様のところに御幣を納め、米を水に浸して搗いて丸めた「オヒヤシ」を供える。礼拝が済むと、子供たちは禰宜からオヒヤシをわけてもらう。これを食べると一年風邪をひかないといわれる。
 とうとの神は「八日様」などとも呼ばれるが、風邪の神なので、それを追い払うのだという。此田では、

「いちのぽっぽ さんやれよ がーきの神送れよ」

と歌う。和田や南和田では戦前、木沢や八重河内では昭和40年頃途絶えたが、上村では現在でも老人クラブが中心になって継続されている。
 松山義雄氏は、「“とうとの神”は唐土の神で、風邪の神のようなよからぬ神は異国からの渡り神であると、みているわけです」と述べている。
 ちなみに、遠山では正月6日に「トリオイ」と称して 「唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先にナナクサホイホイ」 と唱えながら青菜を叩く。
 また、各地に「とうど」と名のつく神社が多くあり、唐土神社(南和田)、遠堂神社(底稲)、当堂神社(此田)などがある。

(『山国の神と人』『遠山風土記』)

遠山郷 とうとの神のイラスト

グイン様

 遠山地方では、天狗のことをグイン様、またはグリン様などと呼ぶ。これは狗賓(グヒン)が訛ったものと思われる。
 下栗では、グリン様は山のツルネ(連嶺=稜線)を通るといい、ツルネに家を建てるとグリン様の祟りがあるという。
 昔、下栗尾根の炭焼平というところに、保敷作右衛門という人が作小屋を建てて山畑を耕作していた。毎晩夜更けになると、グリン様が馬の鳴り輪の音を立ててこの尾根を通った。恐ろしくて小屋をツルネから下の方に移すと、音はしなくなったという。
 また、上村程野、八重河内の屋峰、中根の根平には、山のツルネに「根の神(子の神)」という山の神が祀られている。
 日が沈んでから山の方角を見ると、明かりがチラチラと灯って列をなし、山を登っていくのが見えることがある。これはグイン様の行列であるとも、狐のいたずらだとも言われる。

(『山国の神と人』『ふるさとへの伝言』第1輯)

遠山郷 グイン様のイラスト
●参考文献
『山国の神と人』 松山義雄 1961 未来社
『南信濃村史 遠山』 南信濃村史編纂委員会 1976 南信濃村
『南信濃村のあゆみ双書9 南和田編』 荒井学 1998
『高齢者の語り 第1輯 ふるさとへの伝言』 南信濃村史編纂委員会編 1983 南信濃村史編纂委員会
『遠山風土記』 遠山信一郎 2002 南信濃村史編纂委員会