以上みてきたように、建御名方命の足跡、すなわち阿蘇→名方→伊勢→諏訪というルートは、そのまま中央構造線に重なります。
このことは、建御名方命を奉じてきた一族
(※注2)
が、中央構造線に沿って移動してきたと解釈できるかもしれません。しかしここではあえて、建御名方命が龍神であるという伝承に注目してみましょう。
風水思想では、大地には血管のように気が流れており、山や山脈はその気の流れによって大地が隆起したものだとされています。この気の流れる道を「龍」もしくは「龍脈」と呼び、高く大きな山脈ほど、巨大な「龍」が走っていると考えられています。
中央構造線自体は古い断層ですが、その古傷に沿って多くの活断層が走っています。また阿蘇山は世界最大の活火山ですし、諏訪も温泉の湧出が盛んです。
さらにいえば、南アルプスは日本で最も隆起活動が激しい山脈の一つです。
こうしたことから考えれば、中央構造線には日本でもっとも強大な龍――エネルギーが走っていることになります。
こうした力強さを裏付けるかのように、南アルプスの中央構造線は現在、「気」が感じられる場所として注目を集めています。
特に長谷村と大鹿村の間にある分杭峠は、プロの気功師が発するものより強力な天然の気が発せられる「気場」だといわれ、長谷村は「気の里」として村おこしに取り組んでいます。
断層上は磁場が打ち消される「ゼロ磁場」となり、そうした環境が人体に様々な影響を及ぼすという研究もあるようで、分杭峠の水をペットボトルに詰めた商品も売り出されています。
南信濃村の青崩峠でも、人によっては気を感じることができるそうです。
中央構造線は岡谷から関東平野を横切り、茨城県に伸びています。
そこに鎮座する鹿島神宮と香取神宮は、建御名方命を制圧した武甕槌命と布都主命を祀っています。
鹿島神宮境内の「要石」は、地震を起こす鯰を押さえつけているといわれていますが、また一説に、鯰ではなく龍を封じているのだともいわれています。要石は、外帯の指標である花崗岩であり、そして関東の地下には外帯の指標である蛇紋岩の巨大岩塊が横たわっています
(※注3)
。
中央構造線を一匹の龍にたとえるなら、要石はまさしく龍の“頭”を押さえつけていることになるでしょう。
泉小太郎伝説や甲賀三郎伝説
(※注4)
などからもわかるように、諏訪大明神は龍蛇神であると信じられてきました。阿蘇の健磐龍――猛々しい磐の龍――という名前も意味ありげです。阿蘇と諏訪の神が、山を崩し水を流して土地を作ったという伝説は、中央構造線の荒々しい龍脈のエネルギーを象徴しているようにも思えてきます。
最後に、諏訪に伝わる一つの民話を紹介しましょう。
信濃国には神無月がない
十月は全国の神々が出雲に集まってしまって留守になるので、神無月といいます。
けれど諏訪の龍神様は、頭が出雲の館を七巻き半しても、まだその尻尾は信濃の尾掛けの松にかかっていました。
あまりの大きさに驚いた出雲の神々が、「これからはもう来なくてよい」と言ったため、諏訪の神は黒雲に乗って諏訪湖の底に帰ってしまいました。そこで信濃国には神無月がないのだといいます。
(『信濃の民話』より 松谷みよ子による再話を要約)
日本列島に長々と横たわる巨大な龍。それはまさしく、中央構造線という日本最大の断層の姿そのものではないでしょうか。